love2017’s blog

読書感想ブログ

『くよくよマネジメント』津村記久子

くよくよだけどネガティブじゃない。

こんなにバランスのとれた「くよくよする人」を見た事がない(褒めてます)

 

出版社の紹介ページ↓↓

www.seiryupub.co.jp

『くよくよマネジメント』津村記久子  清流出版

単純に言ってしまえば「エッセイ集」ですが、タイトルの通り全編にわたりしっかりと「くよくよ」を「マネジメント」しようという作者の試みが記されています。

 

それは「くよくよする自分」を、無理矢理押し殺したりポジティブを演じたりする事なく文字通り「マネジメント」しようという挑戦。

 

・よく悩んだりする「くよくよ」の反対って、なんでも言っちゃう「サバサバ系」だと思うけど、大きい声で他者の言動を封じ込める「何でも言う」って本当に言う必要あるのだろうか。『くよくよしていい』

 

・おしゃべりはただだと思って自分の話したい事を延々話す人もいるけど、聞き上手でいつも労わってくれる優しい人をもっと大切にしたい。『優しい人にこそ負担をかけないために』

 

・「あなたのため」と言いながら猛烈な批判をされても悲しまなくていい。相手は不安で怯えているだけなのかもしれないから。『あなたのためにと言う前に』

 

など、思いやりがあって優しくて苦しみを笑顔で抱え込んでしまったり、くよくよしがちな自分を否定したり落ち込んだりしがちな人は是非読んでみて下さい。

心が軽くなり、自分のくよくよを大切にマネジメントするヒントがちりばめられています。

 

 

【個人的感想】

一番初めの「くよくよしてもいい」を読んですぐ、全部読もう!!!と思いました。

こんなに(私のような)ニッチな気持ち(の人)に寄り添って書かれた文章は見た事がないと感動しました。

 

特に「明日の自分を接待する」が本当に衝撃でした。

 

私は休日、朝からぐったりしてしまい一通りの家事をこなすのさえ億劫になってしまう事すらあるのですが、この本の「明日の自分を接待する」の部分を読んで凄いアイデアだなと思いました。

 

やるべき事を「自分事」だと思ってしまうと「どうせ明日やればいいし」的な考えになってしまいますが、「明日の自分」を「間抜けで文句言いの疲れた客」と見なして「あー、これ明日に回すとまたあの客(自分)文句言うわ」と考えると不思議と「文句言われる前にやっとこ」と動けるという事に気づきました。

 

こうやって自分の機嫌を取って自分がめんどくさくない様に自分で手配するというのは、明日の自分を楽する為に、今日の自分で出来る事は全部やっておくという考えだと思うのですが、この著者はそれを押しつけがましくなく命令口調でも教育的でもなく自然と読み手に「なるほどねぇ!」と思わせる優しい力強さがありました。

『泣き童子』宮部みゆき

三島屋変調百物語の第3弾です。

 

books.bunshun.jp

『泣き童子宮部みゆき 文藝春秋

このシリーズが所謂巷にある一般的な百物語と違うところは、主人公が語り部ではなく聞き手の方であるという点ではないでしょうか。

その為、読者は語り部から話を聞いているおちか(主人公)を通して内容を知る形になるので、伝わり方のニュアンスが独特かなと思いながらいつも読んでいます。

 

今回収録されている話は以下の6編。

  • 魂取の池
  • くりから御殿
  • 泣き童子
  • 小雪舞う日の怪談語り
  • まぐる笛
  • 節気顔

 

「ちょっと不思議」で終わる話から心温まる話、妖怪バトル物やガチのホラー(怪談)までよりどりみどり全部盛りです!

 

以下ざっくりと感想。

 

『くりから御殿』泣けた。亭主の気持ちもしんどいしずっと話聞いてた奥さんの気持ちもしんどい。登場人物みんな良い人で良かった。

 

小雪舞う日の怪談語り』普段とちょっと趣を変えて、おちかが外で話しを聞く。

おちかの「話してしまうのがもったいない」っていう気持ちがとても良くわかる。

 

『まぐる笛』おっかさんかっけぇぇぇぇぇ!!!でも優しい人が犠牲になるのは悲しいですね…。

 

で、今回はどうしても思った事があるので最後に『泣き童子』のネタバレが絡む感想がありますので、まだ読んでない方はスルーでお願いします。

 

現在三鬼(三島屋変調怪談百物語シリーズ第4弾)を読んでいる途中なのですが、段々怖い系が増えてきている気がします…。百物語だから当たり前なんだけど。

promo.kadokawa.co.jp

 

 

 

ーーここからネタバレーーー

 

 

「すえきち」が最後に言った

 

「じじい、おれがこわいか」

 

という言葉、あれ本当に宮部みゆきすげぇぇぇ!と思いました。

 

例えばあれが

「じいじ、おれがこわいか?」

だったらどうでしょう。

こう書くと、あの「やましいことを見抜く力」はただの能力であって、すえきちはあくまでもそれを持って生まれただけの、本体はただの人間の子供だったのではないかとも思えます。

 

しかし、実際に発せられた言葉は上記の通り

 

「じじい、おれがこわいか」

 

これはもう、語り部が直感で判断したとおり、

 

これ(すえきち)はそもそも人ではない。

 

別の何かであるという証の様な表現だと感じました。

 

 嗤っているのか、怒っているのか、嘲っているのかも書かれていないのに、心の底からどうしようもない衝動に駆られる語り部の心の狼狽がひしひしと伝わってくるほど恐ろしい言葉。

 

言葉足らずで申し訳ないけど、本当に宮部みゆきって凄い作家なんだなぁって読後しみじみ感じ入ってしまいました。

 

ーーネタバレここまでーーー

 

 

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