「サードマン」ジョン・ガイガー
想ってたんと違う!な1冊でした。
奇跡の生還へ導く人という副題を見て勝手な思い込みで、読む前は「困難な非常事態などの際にたまたま近くにいて助けてくれた人。現実にいたけどもう探し出す事は不可能な人。救急車を呼んだり障害物をどかしたり助け上げたりしてくれたけど、気が付いたら立ち去ってしまっていた人」の事かと思ってましたがそうではなく、究極の状況下で発生する脳の状態異常を起こした人が見る「影の様な存在」で、一般的には守護天使、ドッペルゲンガー、ここにいる筈のない家族、亡くなった友人などの姿を借りて救済を求める冒険者の前に表れ励ましを与えてくれる存在の事をサードマンと呼ぶそうです。
- ニューヨークからパリへ初めての大西洋横断単独無着陸飛行に挑んだ際に「一人ではない」事に気づいたパイロット
- ヒマラヤの高峰ナンガパルバットの単独初登頂に挑んだ際に「パートナーが一緒にいて見守っていてくれた」と感じた登山家
- 魚雷攻撃を受けて沈没した船に乗っていた船員が、一緒に海に投げ出され筏で漂流し途中で死んだ青年に支えられて生き延びた話
などなど、客観的に淡々と事実を書き連ねられているがその状況はどれも筆舌に尽くしがたいほど凄惨で事実と分かっているから余計に恐ろしく、読んでいて途中で吐き気を覚えるシーンも度々あった。
これらの膨大な資料と聞き取りにより宗教的な霊的な存在としてから端を発し、更に心理学や脳科学の研究結果まで含めあらゆる視点で考察されています。
そして驚くべきことは究極なまでに訓練された宇宙飛行士でさえも「隔離はあらゆる意味で極限なのだ」と弱音を吐いてしまうほど人間の脳というものは孤独と単調な作業と外的刺激のない状態を嫌うのかという検証結果でした。
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巻末の解説で角幡唯介が述べていた言葉が印象的だった。
角幡氏もまた北極圏を徒歩で歩いたりヒマラヤ山脈を単独で探検したりと、この本で記述された「サードマンと出会った人たち」と同じような環境を何度も体験しているのだという。
しかしそれでもサードマンと出会った事は無いと言い、それが心に引っかかるのだという。
そう、つまり自分はまだサードマンと出会うほど極限では無かったのかという事。
そこに一抹の悔しさと冒険者らしい探求心を芽生えさせる角幡氏であったが、私も似たような感想を持ちました。
私自身はそんな究極の冒険をしたわけではないのですが、なんていうのかな。
基本的にこの本は「サードマンは外ではなく内側からやってくる」という見方を示しています。つまり天使や死んだ友人というより、自分の潜在意識の深いところで「どうすれば助かるか」を極めて客観的に見ている自分を作り出して助かるように導いているというもの。
そうなんですよね。神の助けだとか守護天使だとかいう話を持ちだされてしまうと、じゃあ死んでしまった人は信仰心が薄かったのかまたは神が助けるに値しなかったとか、全身全霊で生きる道を探していなかったのかって話になってしまう。
そうではなくて、その人それぞれのポテンシャルの高さというか、絶対に生き延びるのだという感情を、死にそうだがどうする?という自分の中の第三者が理論的に分析した結果生き延びられそうだというほんのわずかな確率で叶えようと試みた者のうち、計算通りに肉体的生命が生き延びた者だけが生き残ったにすぎず、死んでしまった人の中にもサードマンが現れた人もいたんだと思う。
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グロい!痛い!悲しい!
でもこの天使は何者なの!?いつか私の前にも現れてくれるの!?
という冒険ファンタジーな気持ちで読むと先が楽しみになる本でした(*´∇`)ノシ マタネ~♪
「死ぬまでに学びたい5つの物理学」山口栄一
「ニュートンの法則?引力だろ?知ってるよ。」
ではどうして遠く離れているものが静止している物体を動かしているのか説明できますか?物理って面白いですよね。でもこんな事どうやって考え付いたんだろう。というのが今回の1冊。
東大卒理学博士でもある筆者が「美しい」と感じた物理学を紹介しています。
といっても数式は多くは登場せず、どちらかといえばその法則を発見した物理学者たちがどういった経緯を経てその理論に辿り着いたのかに焦点が当てられています。
メインとなる5つは
で構成されています。
この本の素晴らしい所はやはりその読みやすさでしょう。
幼い頃に母を亡くした辛さを自分自身が別世界にいるように感じた筆者がある時物理学と出会いこの世界があまりに美しい法則で出来ていると知り感動して物理学の道に進んだという経緯から、物理を専攻としない人たちにこそこの世界の美しさを知ってもらいたく活動されている筆者ならではの視点だからこそ、物理を心得ていない私のような者にも親しみやすく書かれているのだと思います。
どちらかというと偉人伝のような感じもします。1章につき1部から3部構成になっているのですが、だいたい法則そのものに割くのは1部のみで、あとはその人の人物像や開発に至った経緯、その当時の社会情勢などの紹介に充てられています。
パラダイムの破壊者たちに訪れる様々な困難と悲劇的な末路はドラマティックで波乱に満ちています。しかしそれを淡々としかし敬愛を込めて語る筆者の深い知識と物理学に対する愛情の様なものがとても心地よく伝わる1冊になっています。
どちらかというと物理が苦手、理系より文系な人にもおススメです。
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死という言葉はインパクトが強く、この「死ぬまでに見たい、行きたい、食べたい」などがこの頃(2014年当時)結構頻繁に使われましたね。
でもこの筆者に於いてこの言葉は大げさな表現ではなかったようです。
10代で母を亡くすというのはそれだけの衝撃があると思うのです。
そして灰色だった彼の世界に色を蘇らせてくれた物理学のすばらしさ、そしてそれ以降の彼が見ている世界はもしかすると絶対音感の人が聴いている音の様に、全てのものに数式が重なって見えているのかもしれないと思いました。
そしてその世界を美しいと讃える筆者の見ている世界を垣間見てみたいと感じられる1冊でした。